まにあってよかった

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2014.08.27 Wednesday ... - / -
#ベランダ


気がつけばベランダにイタチが整列している
僕のベランダはあなたのはす向かいだ
イタチの集合写真を撮るカメラマンは生きている
彼女たちは回覧板を一行も読まない

気がつけば洗濯物が五月の風に吹かれて
彼女たちは半乾きの靴下で今日も自転車を漕ぐ
イタチは午後五時には解散するそうだ
僕は合鍵を忘れてドアを蹴破った

気がつけば僕の写真が引き伸ばされている
彼女たちは「イタチお断り」のシールを剥がす
カメラマンはベランダのラにピントを定めて
玄関の運動靴には一本の紐もない


 

2010.05.14 Friday ... comments(4) / trackbacks(0)
#レモン石鹸

レモン石鹸を握りしめて
遠い青空を見あげていた
誰か落ちてこないかな
誰か落ちてくれば
今日という日を忘れずに
済むのだけれど

石鹸が泡立って小さくなるように
香りだけ残して消えていく
そんなキレイな生き方が
できたらいいと君は
言ってたっけ

学校で字を習ったので
僕たちの手は汚れた

汚れた手で触らないで
という君を追いかけ回して
僕たちは校庭を何周しただろう

喉が渇いて とにかく喉が渇いて
蛇口に齧りついて水を飲んでいたら
校舎と水場のあいだに小さな虹ができた

虹の輪をくぐって
君は下校していった
僕はレモン石鹸を握り締めて
遠い青空を見あげた
誰か落ちてきたら
本当は困るのだけれど



2010.05.03 Monday ... comments(0) / trackbacks(0)
#散歩者

  衰えるということは、反射の少ない冬の陽射しが人の正体を明瞭に透かす残酷な二月の午後のようで、時の傾斜がしだいに勾配を緩めて歩行を鈍らせる穏やかな日々が、流れる風景を視野に留め置く時間を少しずつ伸ばしていくのか、この眼に映る映像をけして忘れないという予感をとめどなく積み重ねはするものの、予感はことごとく裏切られ、私たちの足元に若葉の青さを演じながら舞い落ちてしまう。例えばそのとき一人の散歩者が不意に現れ、まだ瑞々しい落葉を平気な顔で踏みつけて私たちを追い越していくとしたら、私たちも足どりを早めて散歩者に追いついて肩を並べ、白い吐息と共に時候の挨拶めいた二、三の言葉を共有することはできるだろうが、彼を追い越して私たちの背中を読ませることは叶わない夢であり、衰えるとはそのように背中を失っていく磨耗の過程でもあるのだろう。夢といえば、途切れた夢の続きを、切れ切れの眠りの中で手渡していく儚い遊戯に慣れてくると、いよいよ夢は生活の暗渠として時間の裏側を流れはじめ、隙があれば逆流して鋭い波を立ち上げ、時間の表層を破ろうと荒れた表情を垣間見せるが、またしてもあの散歩者のほっそりとした大腿が夢の波頭を事も無げに打ち砕いていくので、私は私に向かって夢の続きを搾り出すように、まだしばらくは命令しなければならない。
 
 人がひとり増えたので、人をひとり捨てるのです、そう呟いた男は、小さな黒い影に手を引かれて暗闇に消えた。あれはいつかの夢か、あるいは編み込んだ記憶の綻びか、男が捨てるのか男が捨てられるのか、気がかりではあるが気がかりを確かめないままやり過ごす暮らしに慣れすぎた私は、未来へ赴く気配で過去へ遠ざかる男の背中に届くほどの、飛距離を備えた言葉を咽喉に充填することができない。人が人を捨てるには、理由という鮮やかな萌黄で自らを塗り潰し、晩冬の陽だまりに投身する華やぎが必要だとして、いったい誰が、その陰影の美しさを褒めてくれるだろう。増えたり減ったりすることが、私たちのあらゆる出発と終着を支配するのだから、いずれ誰もが廃棄される側の言葉を図らずも漏らすことになり、いつかは名前という重たい荷物をおろす場所を決めなくてはならない。口実という名の木の実を道すがら食べ零す小動物のように、立ち止まっては振り返り、立ち止まっては振り返り、自らの名残に発芽の兆しをあてもなく探してみても、ふたたびあの散歩者が華奢な足どりでふらりと現れ、私たちの退路を冬の林道のように踏み固めてしまう。

 蘇るということは、古井戸から這い上がって現世の縁に青白い手首を掛けるような運動神経の酷使ではなく、目覚めると見慣れた部屋に見慣れた朝の光が射し込み、天井の木目模様が少し違っていることに気付かないまま半身を起こして一日を始めるような、きわめて静かな振る舞いの中で起こるのではないか、そのような聞き慣れた言い回しを信用しないために、私たちはなにを信用すればいいのだろう。冬の次に訪れる相対的な季節の中で、中空の陽だまりから落下する重たい荷物を両腕でしっかりと抱きとめるとき、おそらくは臀部をしたたか地面に打ちつけた衝動で思わず叫んでしまう悲痛の言葉を、まずは信用してみようか。あるいは、人を捨てた男と、人に捨てられた男が、けして出会うことのないあの場所とこの場所で、まったく同じ口癖を呟いて日々の抑揚を同期させている奇妙な符合を、その口癖を私の唇でも真似てみることで信用してみようか。いずれにしても反復と継続が無効な挙措のささやかな閃きは、始まりも終わりもない夢の断片の乱暴な切り口のようで、その切り口に駆け寄ってはとりあえずの手当てをしている、その縫合の美しさを、いったい誰が、悼んでくれるだろう。



 

2010.03.18 Thursday ... comments(0) / trackbacks(0)
#ハ ル

 

梅のなかにハルは隠れていた

男たちの少女期のように

前髪をあげる時機を逸して

笑顔をもらえなかったハル


桜が咲いて散るのは

冬の粗相だというのに

ハルはかたくうつむいたまま

冬の代わりに罰を受ける


暖かい梅の幹を追われ

毛虫のように叩き落とされ

この世の冷たい草むらで

ほっそりと生きはじめるハル


背中を丸めた小さなハルは

ながいながい余生をさかのぼる

この世は巨大な獣のようで

波うつ広い平野をもっていた


なめらかな毛並みに逆らって

獣の背中を越えていくハル

獣はあたたかい土地から土地へ

盲目に走りだしてしまうから


ハルの頭のうえをひゅんひゅん

飛び去って行くたくさんのハル

ハルはハルをなんにちも

見送って飽きなかった


見あげるハルと見おろすハル

見あげてもハナはなく

見おろしてもハナはなく

見えるのは桃色のハルの影ばかり


胸のなかにハルを隠していた

膨らむことのない硬い胸に

ハルがあふれてもあふれても

ハルはハルになんにも

教えることができない

 

 

2010.02.22 Monday ... comments(0) / trackbacks(0)
#net詩
 

みずから編んだ網の
美しい放射を 
蜘蛛は知らない
だから ため息をつかない 
網をたたむ 
空腹の夜さえも

ストッキングに爪をかけて
破りたい、欲望の夜 
彼は ヒョーゲンする
破れ目から顔を出す
絶世の自我像を
破れ目から手を振る
薄化粧の父親を

となりでは
鳥目の彼女がいそいそと
メタファーをずり下ろす
足首で丸まったストッキングは
金糸雀の巣のように暖かい

劣文を敷いた冷たいベッドでも
性交はできるんだ
痛んだバネがギシギシ鳴るから
甘い睦言にも切実さが、

ねえ、できちゃったの。
なにが?
詩が。

もしもし、おふくろ、
何日身籠れば 産んでもいいんだ?
なにを?
なんだろう。


鳥目の彼女には羽がない
おだてても 懇願しても
飛んでいってくれない
これが モモ肉
これが ムネ肉
これが ササミ
全部に名前が付いてるの
豊満な鳥肌を惜しげもなく差し出して
ああ、君を食べ尽くすことなんて
僕にはできないよ


未熟児を産湯からあげて
原稿用紙にくるむ
赤ん坊から立つ湯気の香りは
うまく表現できないけれど良いものだ
やはり 
原稿用紙は満寿屋に限る
ところで
この子の名前、どうする?
「無題」はどうかな?
あ、いいんじゃない、字画もいいし。


何日も 何日も
獲物が掛からないことがある
網を張る場所が悪いのか
網の出来が悪いのか
蜘蛛に そういう悩みはない
腹が減れば 網を食ってしまう
網は また張ればいい
糸なら、
糸ならたくさん
あるのだから
この腹の中に


2010.02.09 Tuesday ... comments(0) / trackbacks(0)
#キネマコンプレックス
 電気由来の感傷を
どこまでも深く植えて

眼底で映画がはねる
フィルムを硝子体に仕舞う

ねぇ、あなた
エンドロールで拍手する癖
どうにかならないかしら

映画は見世物なんだから
拍手して いいんだよ

映画は偽物なんだから
拍手なんて しなくていいの

似せ者の女に恋する男の
終わらない眩暈をめぐる
映画を観ていた

なんかね、恥ずかしいの
いまどき誰も拍手なんて
しやしないのに

キャメラの定まらない視線が
抜き差しならない光ばかり
拾っては 患っている

ねぇ、帰りましょうよ
すっかり明るくなっちゃった

男は似せ者を追いかけて不意に
本物の女に出会ってしまう

ねぇ、帰りましょうよ
誰もいなくなっちゃった

偽物を追いつめると本物になる
そこで恋が終わり 女は死ぬ
上映が終わり 映画が生まれる

人にぐるぐる巻きついて
驚かす妖怪なんだって

誰が?
一反木綿が。

それは苦しそう

でも今は 不景気だから
映画館のスクリーンになりすまして
日銭を稼いでいるんだ

それも苦しそう

暗い空からふんわり舞い降りて
白い布が覆いかぶさってくる

こうやって
ぐるぐる君に巻きついて

ほら、
もう何も見えない




2010.02.09 Tuesday ... comments(0) / trackbacks(0)
#金曜日のフライデー
遠くで水を使う音
遠くまで水を遣わす者
その正体は
もう少し浅く
眠らなければ見えない


フライデー
金曜日の絶壁に立つ野蛮人
孤島に時間は溢れ
過剰な時間はロビンソンが喰う
喰いきれない時間が
フライデーを追いつめる


フライデー
金曜日の資格がない野蛮人
孤島に言葉は溢れ
ロビンソンが食べ残した言葉を
フライデーに教える
頭を抱えたフライデーが
姿勢良く 断崖から飛ぶ


遠くで水を使う音
近くには
さらさらと病の糸屑が集まる
鳩尾の入口がいつになく涼しい
愁訴が終わった体で
そろそろ何かが始まり
そろそろ何かが終わる


フライデーのからっぽの頭が
浜辺にうちあげられる
太陽光を浴びて
高透明ポリプロピレンのように輝く
この島の海岸では
水でさえも
不純な漂着物にすぎない


そして四人目のフライデーを
フライデーと名づける
何も教えず 一緒に暮らす


2009.12.10 Thursday ... comments(0) / trackbacks(0)
#キャメラ

 キャメラを持ったかどうか
もはや忘れてしまった

軽い足どりで階段を上る
踊り場の四隅を眼で清める

「私の名前は」と言い掛けた口が
廊下に散らかっている

「片付けろ」と言い終えた私の口が
キャメラの侵入にふさわしいほど丸い

ここがどこだか知っている
という言い草の群生

キャメラを向けるとはにかんで
身をよじって傷んでしまう

瑞々しい呻き声が地面を濡らし
足元を悪くする

音を知らないキャメラは
どこまでも軽やかに階段を上る

人を喰ったような顔をして
私はキャメラを喰っていた

一部始終を見たいと思ったら
いつまでも日が終わらない







2009.11.12 Thursday ... comments(3) / trackbacks(0)
#映像

草をむしる背に
子供たちが寄ってくる

どこの子
よその子
あざ名の
名なし

手元で
ぷつり
ぷつり
ほそ根が切れる事実を
体感する

顔の見わけがつけば
子供のひとりは
私であったろう

こんな昼間に
しゃがんでいる男は
珍しい何か である

PSPから目を離し
子供は男の頭を見下ろす
つむじの渦巻き
途中から白い毛
剥がれかけた頭皮

私が子供であれば
このような映像を
いつまでも覚えている

根っこに付いた土が
目の前で
瞬くまに白く
乾いていく

 

 

2009.10.12 Monday ... comments(0) / trackbacks(0)
#衣替え

夏と秋のあいだを
くぐりぬけていく
こんなに狭いすきまを
つくった人の気が知れない

左手は夏に触れ
右手は秋に触り
温度差があれば
気はどこまでもうつろう
人はどちらかに傾いて
重さを小水のように漏らす

体をあずけるのなら夏
信用のおける夏がいいと
耳打ちした人は戻らない
脱ぎ捨てた衣服を跨いで
行ってしまったきり
固い夏の格子が
がらんがらんと落ちる

くるぶしの高さまで
過去は来ている
歩くと小さな渦が生まれ
渦のひとつは口になり
渦のひとつは耳になり
足元で問わず語りをひそひそと

 記憶のしっぽに化かされて
 肥溜に落ちた愚かもんがぁ
 糞尿に溺れながら改心してさね
 記憶のしっぽにつかまってぇ
 命からがら助かるっちゅうね

改心したのは記憶のほう
助かったのは記憶のほう
そう言いかけた渦が
大きな渦に飲まれて
くるくると死んだ

愚かもんが
夏の首を絞め上げる
いらないものを
吐かせようか
いらないものを
吐かせまいか
愚かもんの両手
両手の愚かもん

いまはむかしの前で
むかしはいまの後ろで
燃え尽きる
燃え尽きている
点々と
点々と
汗のように
血のように
脱ぎ散らかした衣服を
拾い集めながら身に付け
他人の匂いに袖を通す

焼け爛れた皮膚から
くるぶしが
胡桃のようにころんと
転がって坂道を行く
冷めた火種を固くにぎって
夏と秋のあいだを
くぐりぬけていく

こんなに狭いすきまを
つくった人の
気が知れない



2009.09.10 Thursday ... comments(0) / trackbacks(0)
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